木枯らしとビル風とさんま
秋の風物詩、木枯らし。
僕の住んでいるところは、マンションが林立している。
木枯らしが吹くと、ビル風が鳴る。
この音が、けっこう好きだ。
ピー。ピー。
遠くの方まで響いていくのか。
ひどく感傷的な音だったりする。
普段、生活の中に溶け込んでいるビルが、その存在をひそやかに主張している。
木枯らしでかじかむ手をさすりながら、ビル風の音を聞くと、秋なのだなあ、と実感する。その感じがたまらない。
他に秋の風物詩があるとしたら、夕餉の匂い。
さんまなんかを焼いている匂いが、どこかの家庭から漂ってくる。
ほんのりとともった窓の明かり。夕食を準備する家人。
一日の終わりに向けて、時間がゆっくりと流れているような、そんな雰囲気。
もしかしたら、平和な時間ばかりが存在しているわけではないのだろうけど。
心の中で、思わずにこりと微笑む。
人の生活がつくる音や匂い。
それらを感じるのが、やけに好きだ。